「ねぇねぇ、この坂道すっごくインスタ映えするよ!」
神戸・北野坂の入り口で、美大生の麻衣が携帯を構えながら声を上げた。週末の午前10時、私たち大学生4人組は神戸観光の定番スポット、北野異人館街へと向かっていた。
「まいまい、また写真撮ってる〜。でも確かにこの石畳の雰囲気、めっちゃ素敵!」
関西の私立大に通う友人の優子が笑いながら麻衣に寄り添う。建築学科の康平と、観光学部の私を含めた4人での神戸観光は、みんなの時間が合うのを待って、やっと実現したものだった。
北野坂を上っていくと、両側には明治時代から残る洋館や、おしゃれなカフェ、雑貨店が立ち並ぶ。坂道はゆるやかで、ゆっくり散策するには丁度いい。休日というだけあって、若いカップルや観光客で賑わっている。
「ここ、実は明治時代から外国人居留地として栄えた場所なんだよ」
建築好きの康平が説明を始める。「当時の外国人商人たちが建てた洋館が『異人館』って呼ばれてて、今でも30棟以上が残ってるんだ」
「へぇ〜!だから西洋っぽい建物ばっかりなんだ!」
優子が感心したように頷く。確かに、ここは日本にいることを忘れそうな異国情緒あふれる街並みだ。
北野坂を上り切ると、いよいよ異人館街の中心部に到着。風見鶏の館やうろこの家など、有名な異人館が次々と姿を現す。
「みんな、風見鶏の館に入ってみない?神戸を代表する異人館なんだって」
観光学部の私からの提案に、みんな賛成してくれた。入館料は大人1人750円。学生証を見せると割引になるのが嬉しい。
館内に入ると、まるでタイムスリップしたかのような雰囲気が漂う。優雅な階段、アンティークな家具、ステンドグラス越しに差し込む光。麻衣は写真を撮るのに夢中だ。
「これ、ドイツ人貿易商のゴットフリード・トーマス・コープが建てた館なんだって。明治42年の建築だよ」
康平が館内パンフレットを読みながら解説してくれる。
「すごい!100年以上も前なのに、こんなにしっかり残ってるんだね」
優子が感動した様子で天井のシャンデリアを見上げている。
館内を一通り見学した後は、近くのカフェでひと休み。異人館をリノベーションしたという店内は、アンティークな雰囲気とモダンなデザインが絶妙にマッチしている。
「このケーキ、めっちゃおいしい!」
麻衣が注文したのは、神戸名物のチーズケーキ。優子はスコーンセット、康平と私はサンドイッチを頼んだ。窓からは異人館街の景色が一望できる。
「そういえば、この辺りってなんで高台にあるの?」
優子が不思議そうに尋ねる。
「それがね、当時の外国人居留地は港の近くの平地にあったんだけど、夏は蒸し暑くて住みにくかったんだって。それで涼しい北野の高台に住宅地を作ったんだよ」
観光学部で学んだ知識を活かして説明すると、みんな興味深そうに聞いてくれた。
カフェを出た後は、異人館街をさらに散策。おしゃれな雑貨店で買い物を楽しんだり、路地裏の隠れた写真スポットを探したり。時間があっという間に過ぎていく。
「あ、もうこんな時間!」
気づけば午後3時を回っていた。でも、まだまだ見たいところはたくさん。
「北野天満神社にも行ってみない?せっかく来たんだし」
康平の提案に、みんなで神社へ向かう。閑静な住宅街の中にある神社は、異人館街とはまた違った日本らしい雰囲気。
「こうやって和洋の文化が混ざり合ってるのが、神戸らしいよね」
麻衣の言葉に、みんな同意する。
夕方になり、だんだんと空が茜色に染まってきた。異人館のシルエットが夕陽に照らされて、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「今日は楽しかったね!また来たいな」
優子の言葉に、みんな笑顔で頷く。
帰り道、北野坂を下りながら振り返ると、異国情緒豊かな街並みが夕暮れに溶け込んでいく。今日の思い出と一緒に、この景色も心に刻まれそうだ。
「次は南京町に行こうよ!」
「北野工房のまちも気になるな」
「ハーバーランドもいいよね!」
みんなで次の神戸観光を計画しながら、三宮駅へと向かった。異人館街での楽しい一日は、こうして幕を閉じた。
神戸の街には、まだまだ私たちの知らない魅力がたくさん眠っている。今度はどんな発見があるだろう。そんなわくわくした気持ちを胸に、電車に揺られながら帰路についた。
この日の写真を見返しながら、麻衣が言った。
「神戸って、やっぱり特別な街だよね」
その言葉に、私たちは皆、深くうなずいたのだった。
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