神戸港の海風に吹かれて、二人でただ歩いた午後のこと

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神戸港に着いたのは、確か午後2時過ぎだったと思う。

待ち合わせ場所で会ったとき、特に行き先も決めてなくて、「どうする?」「歩く?」みたいな会話だけして、なんとなく海の方へ足を向けた。デートっていうほど気合いの入った感じでもなく、かといって友達同士でもない、あの微妙な距離感。でも悪くなかった。

海沿いの遊歩道を歩き始めたら、思ったより風が強くて、髪がばさばさになった。潮の匂いと、どこかから漂ってくるコーヒーの香りが混ざって、なんだか不思議な気分になる。彼女が「寒くない?」って聞いてきたから、「全然」って答えたけど、本当は少し寒かった。でも寒いって言ったら喫茶店とか入ることになりそうで、それはそれでいいんだけど、もうちょっと歩いていたかったんだよね。

港に停まっている船を眺めながら、「あれ、どこ行きなんだろうね」とか適当なことを言い合う。答えなんてわからないし、別に知りたいわけでもない。ただ、何か喋ってないと落ち着かなくて。

そういえば去年の夏、友達と神戸に来たときは灼熱地獄で、アイスを3つ食べて気持ち悪くなったことを思い出した。あのときは「ブルーウェーブアイス」っていう、やたら青い見た目のソーダ味のやつを最後に食べて、完全にとどめを刺された。今日は冬だから、そんな心配もないけど。

彼女が急に立ち止まって、「あ、カモメ」って指差す。見ると、確かに数羽のカモメが手すりに並んで、こっちを見てた。人間慣れしてるのか、全然逃げない。写真撮ろうとスマホ出したら飛んでいったけど。

歩いているうちに、会話の間が少しずつ長くなっていく。でもそれが気まずいわけじゃなくて、むしろ心地よかった。波の音と、遠くで聞こえる船の汽笛、たまにすれ違う人の話し声。無理に何か話さなくてもいいんだって、そう思えた瞬間だった。

ベンチを見つけて座ったとき、彼女が「お腹空いた」ってぽつりと言った。

「何食べたい?」って聞いたら、「うーん」って首を傾げて、結局答えは出なかった。そのまま10分くらいベンチに座ってたと思う。目の前を犬を連れた老夫婦が通り過ぎて、犬がこっちをちらっと見た。柴犬だった。可愛かった。

立ち上がって、また歩き始める。今度は少し内陸の方へ入ってみた。古いレンガ造りの倉庫が並んでいて、その隙間から夕方の光が斜めに差し込んでくる。時間の感覚が曖昧になって、もう4時を回っていたことに気づいた。

「そろそろ帰る?」って彼女が聞いてきたけど、「もうちょっといいかな」って返した。本当は、このまま終わるのが惜しかった。特別なことは何もしてないし、どこか観光スポットに行ったわけでもない。ただ歩いて、海を見て、風に吹かれただけ。

結局、駅まで戻る頃には5時を過ぎていて、空が少しオレンジ色に染まり始めていた。「今日、楽しかった」って彼女が言ってくれて、僕も「うん」とだけ答えた。

帰りの電車の中で、今日のことを思い返してみても、特に印象的なシーンがあるわけじゃない。でも、なんとなく良かったなって思える。そういう時間って、意外と貴重なのかもしれない…けど。

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