
元町の高架下を歩いたのは、たしか午後3時を回った頃だったと思う。
友達が「ちょっと時間潰そう」って言い出して、特に目的もなくJRの高架沿いをふらふらし始めたんだけど、これが予想外に良かった。高架下商店街って、昔ながらの看板が並んでて、どの店も「いつからやってるんだろう」って雰囲気を醸し出してる。靴の修理屋とか、手芸用品の店とか、正直いまどき誰が使うんだって思うようなラインナップなんだけど、どの店もちゃんと営業してるのが不思議で面白い。
薄暗い通路の奥から、コーヒーを淹れる匂いが漂ってきた。たぶん喫茶店があるんだろうけど、探す気力もなくてそのまま通り過ぎた。高架の柱には無数の張り紙があって、イベントのチラシやら、迷い猫の情報やら、誰が読むんだって内容が重なり合ってる。友達は「これ全部剥がしたらどうなるんだろうね」とか言ってたけど、多分下から昭和の広告とか出てくるんじゃないかな。
ふと、昔バイトしてた居酒屋の店長を思い出した。
あの人も元町に住んでたって言ってたな。全然関係ないけど。
公園に出たとき、急に視界が開けて眩しかった。小さな公園で、遊具もブランコと滑り台くらいしかないんだけど、ベンチに座ってる老夫婦がいて、鳩が足元をうろついてた。友達は自販機でお茶を買って、私は買わなかった。別に喉も渇いてなかったし、なんとなくこの空気を壊したくなかったというか。公園の向こうには、また別の高架下の入り口が見えて、そっちはもっと暗くて狭そうだった。誰も通ってない。
「あっち行く?」って聞かれたけど、「どっちでもいいよ」って答えた。本当にどっちでもよかった。
高架下に戻ると、さっきとは違う通路に入ってた。こっちは少し広くて、天井が高い。電気屋があって、ブラウン管テレビが店頭に並んでるのを見て笑った。まだ売ってるんだ、これ。友達は「レトロブームじゃない?」とか言ってたけど、多分ただ片付けてないだけだと思う。その隣には古本屋があって、入り口に平積みされてる雑誌が全部10年前のやつだった。ファッション誌の表紙に載ってるモデルの髪型が懐かしすぎて、ちょっと切なくなった。
歩いてると、高架の上を電車が通る音が定期的に響く。ゴトゴトっていうよりは、ゴォォォって低い音。その音が通り過ぎると、また静かになる。この繰り返しが妙に心地よくて、会話も途切れ途切れになってた。「お腹空いた?」「別に」「私も」みたいな、どうでもいいやり取り。
途中で見つけた喫茶店に入った。
「モトマチ・カフェ・ノエル」って看板が出てたけど、中に入ったら普通の昭和喫茶だった。マスターが一人でカウンターに立ってて、常連らしきおじさんが新聞読んでる。メニューを見たら、ナポリタンとミックスサンドしかなくて、友達と顔を見合わせた。結局二人ともアイスコーヒーを頼んで、30分くらいぼーっと座ってた。マスターはずっと無言で、ラジオから演歌が流れてた。居心地が悪いわけじゃないけど、居心地がいいわけでもない、絶妙な空間。
外に出たら、もう夕方の気配がしてた。
高架下の照明が少しずつ目立ち始めて、オレンジ色の光が通路を照らしてる。さっきまでいた公園の方を振り返ったけど、もうどこにあったか分からなくなってた。友達が「結局何しに来たんだろうね」って笑ってたけど、私も同じこと思ってた。
帰り道、高架沿いをまた歩いた。今度は逆方向。同じ景色のはずなのに、なんか違って見える。店の看板も、柱の張り紙も、さっき見たのと同じはずなのに、新鮮に感じる。不思議なもんだ。
元町の高架下は、多分また来ると思う。理由はないけど。


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