神戸の水槽前で子供が叫んでた、あの幸福な騒音について

Uncategorized

ALT

休日の須磨水族館は、とにかくうるさい。

いや、うるさいって言い方は悪いかもしれないけど、でも本当にうるさいんだよね。子供たちの声が水槽のガラス越しに反響して、まるで音が二重三重に折り重なってくるみたいな感覚。イルカショーの時間が近づくと、その音量はさらに増幅されて、もう何が何だかわからなくなる。僕が最初にここへ来たのは確か春先の平日だったと思うんだけど、その時はもっと静かで、水の音とかポンプの低い振動音とか、そういう「水族館らしい音」がちゃんと聞こえてた。

でも休日はまったく違う世界だった。

神戸の須磨海岸から少し入ったところにあるこの水族館は、家族連れにとって定番中の定番らしくて、週末になると駐車場が朝から埋まる。チケット売り場の列も長蛇で、入場するまでに20分は待たされる。僕が行ったのは去年の秋、11月の日曜日。気温はもう肌寒くて、海風が吹くとジャケットの襟を立てたくなるくらいだったんだけど、館内に入った途端、人の熱気でむわっとした。照明は少し薄暗くて、青い光が水槽から漏れてくる。その青に照らされた子供たちの顔が、なんだか異世界の住人みたいに見えて、ちょっと不思議な気持ちになった。

「ママ見て見て!」「こっちこっち!」「パパ写真撮って!」

声が飛び交う。走り回る小さな影。ベビーカーを押しながら必死についていく親たち。大きな水槽の前では、ガラスに顔を押し付けるようにして魚を見つめる子がいて、その隣では兄弟らしき二人が「あれエイだよ」「違うよサメだよ」って言い合ってる。どっちも間違ってるけど、誰も訂正しない。それでいいんだと思う。正解なんてどうでもいい瞬間がある。

僕は昔、小学生の頃に一度だけ遠足で水族館に行ったことがあって、その時クラゲのコーナーで気持ち悪くなって保健室(っていうか休憩室?)に連れて行かれたことがある。あのふわふわ浮いてる感じが、なぜか自分の体まで浮いてるような錯覚を起こして、気分が悪くなったんだよね。それ以来、クラゲはちょっと苦手。でも須磨のクラゲコーナーは照明が綺麗で、ピンクとか紫とかにライトアップされてて、意外と平気だった。むしろ幻想的で、大人が一番写真撮ってるエリアだったかもしれない。

ペンギンのエリアに差し掛かると、また音の質が変わる。

子供たちの「かわいい!」って声が一斉に上がって、それに混じってペンギンの鳴き声も聞こえてくる。あのキューキュー言う声、なんか玩具みたいで本当に生き物なのか疑いたくなるよね。ガラスの向こうでペンギンが泳いでるのを見てる女の子が、「あたしも泳ぎたい」って言ってて、お母さんが「寒いからダメ」って笑いながら答えてた。当たり前だけど、その当たり前のやり取りが妙に心に残った。

タッチプールのコーナーは特に賑やかで、ヒトデやナマコを触った子供たちが「ぬるぬるしてる!」「気持ち悪い!」って叫びながら、でも何度も手を伸ばしてる。あの矛盾した行動、子供特有だよね。怖いけど触りたい。嫌だけど気になる。大人になるとあの感覚を忘れちゃうんだろうな。僕ももう触る気にならなかった。手を洗う場所が混んでるのも面倒だったし。

出口に向かう通路には、お土産屋さんがあって、そこでまた子供たちが「これ買って!」攻撃を仕掛けてる。ぬいぐるみ、キーホルダー、謎の光るおもちゃ。親は疲れた顔で財布を開いたり、「また今度ね」ってなだめたり。レジの音と、ビニール袋のガサガサした音。外から差し込む夕方の光が、出口のガラスドアを逆光にしてた。

僕が水族館を出たのは16時過ぎで、空はもうオレンジ色に染まりかけてた。駐車場にはまだ車がたくさん残ってて、家族連れが三々五々帰っていく。子供を肩車してる父親、ベビーカーに荷物を山積みにしてる母親、手を繋いで歩く兄妹。

あの騒がしさが、たぶん幸せの正体なんだと思う。整理されてなくて、統一感もなくて、ちょっとうるさくて疲れるけど。

でもまあ、また行くかって言われたら、平日に行くけどね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました