神戸・北野坂を駆け上がる、異人館めぐりの一日

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神戸の北野坂は、いつ訪れても坂道が容赦なく体力を奪っていく。三宮駅を降りて、友人たち五人で異人館街へ向かったのは、十月半ばの土曜日だった。空気はひんやりと澄んでいて、風が吹くたびに街路樹の葉が小さく揺れる。誰かが「この坂、思ったより急じゃない?」と言い出すと、全員が一斉に歩みを緩めた。

坂を登り始めて五分もしないうちに、リュックを背負った友人のひとりが「ちょっと待って」と立ち止まった。彼女は息を整えながら、スマホで何かを調べている。どうやら、最初に立ち寄る予定だった「風見鶏の館」への道順を確認しているらしい。その横で別の友人が、坂の途中にあるカフェの看板を指差しながら「帰りに寄ろう」と提案していた。観光客らしき外国人のグループとすれ違う。彼らもまた、同じように異人館をめぐっているのだろう。

北野坂を登りきると、視界が開けて異人館が立ち並ぶエリアに入る。建物の外壁は白やクリーム色で統一され、窓枠には洋風の装飾が施されている。どこか懐かしさを感じさせる街並みだった。子どもの頃、絵本で見た外国の家がこんな雰囲気だったかもしれない。そんなことを思い出しながら歩いていると、誰かが「写真撮ろう」と声をかけてきた。

最初に入ったのは、「萌黄の館」だった。淡い緑色の外壁が印象的な建物で、中に入ると木の床がきしむ音が響く。靴を脱いで館内を歩くと、ひんやりとした空気が足元から伝わってきた。部屋ごとに異なる壁紙や家具が配置されていて、当時の暮らしぶりを想像させる。友人のひとりが「ここに住んでたら毎日優雅な気分になれそう」とつぶやくと、別の友人が「でも掃除が大変そう」と返して、みんなで笑った。

館内を進むと、二階のバルコニーから神戸の街を一望できるスポットがあった。遠くに海が見え、港町らしい景色が広がっている。風が強く、髪が顔にかかるのを手で押さえながら、しばらくその景色を眺めていた。誰かがカメラを構えているのが視界の端に映る。シャッター音が何度か響いて、それから全員で次の館へ向かった。

異人館街を歩いていると、小さなカフェやギャラリーがところどころに点在している。その中のひとつ、「ラ・メゾン・ドゥ・ブルー」という名前の洋菓子店に立ち寄った。ショーケースには色とりどりのケーキが並んでいて、どれもこれも美しい。友人たちはそれぞれ好きなケーキを選び、店の奥にある小さなイートインスペースで休憩することにした。

私が選んだのは、モンブランだった。フォークを入れると、クリームがふんわりと崩れて、栗の香りが鼻をくすぐる。甘さは控えめで、紅茶との相性が良かった。隣に座っていた友人は、チョコレートケーキを食べながら「これ、めっちゃ濃厚」と言って目を細めている。別の友人は、カップを持ち上げようとして手が滑り、テーブルにコトンと音を立てて置き直していた。その瞬間、みんなの視線が一斉にそちらを向いたけれど、誰も何も言わずに笑いをこらえていた。

休憩を終えて、再び異人館めぐりを続ける。次に訪れたのは「うろこの家」だった。外壁が天然石のスレートで覆われていて、その名の通り魚の鱗のように見える。館内には、西洋のアンティーク家具や絵画が展示されていた。ひとつひとつの部屋をゆっくりと見て回りながら、当時の人々がどんな暮らしをしていたのか想像する。窓の外には庭が広がっていて、手入れされた植物が風に揺れていた。

異人館街を歩いていると、時間の流れ方が少し違うような気がする。観光地特有の賑やかさはあるけれど、どこか静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。坂道を下りながら、友人たちと今日見た建物の話をした。誰かが「また来たいね」と言うと、全員が頷いた。

帰り道、朝に見つけたカフェに立ち寄った。窓際の席に座り、温かいカフェラテを注文する。外を歩く人々を眺めながら、ゆっくりとカップに口をつけた。ミルクの甘さとコーヒーの苦味が混ざり合って、ほっとする味だった。友人たちもそれぞれ飲み物を手にして、今日一日のことを振り返っている。

神戸の異人館街は、何度訪れても新しい発見がある場所だと思う。建物ひとつひとつに歴史があり、そこに暮らした人々の物語が詰まっている。北野坂を登る疲れも、異人館を巡る楽しさも、友人たちと過ごす時間も、すべてがこの街ならではの魅力だった。また季節を変えて訪れたら、きっと違う表情を見せてくれるだろう。

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