神戸・元町高架下で見つける、ふたりだけのゆったり時間

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神戸の街には、観光ガイドに載らない魅力的な散歩道がいくつも隠れています。その中でも、元町の高架下商店街は、地元の人々に愛され続ける特別な場所です。JR元町駅から神戸駅へと続く高架下には、昭和の面影を残す個性的な店舗が軒を連ね、まるで時間がゆっくりと流れているかのような独特の雰囲気が漂っています。

週末の午後、私たちはふたりで元町駅に降り立ちました。駅前の喧騒を抜けると、すぐに高架下の入口が見えてきます。アーチ状の天井が続く商店街は、外の明るさとは対照的に、どこか懐かしい薄暗さに包まれています。この光と影のコントラストが、高架下商店街の独特な魅力を生み出しているのです。

歩き始めてすぐに目に入るのは、古い喫茶店や雑貨店、小さな飲食店の数々です。シャッターが閉まっている店もあれば、今も現役で営業を続ける店もあり、その混在具合がこの場所のリアルな姿を物語っています。私たちは特に目的地を決めずに、ただ足の向くままに歩を進めました。こういう散歩こそが、元町高架下の楽しみ方なのです。

ふと立ち止まったのは、手書きの看板が目を引く小さな古書店の前でした。店主らしき年配の男性が、店先で本を整理しています。「どうぞ、ゆっくり見ていってください」と優しい声をかけられ、私たちは店内へ。天井まで届く本棚には、文学書から漫画、雑誌まで、ジャンルを問わず本が詰め込まれています。パートナーが手に取ったのは、古い神戸の写真集でした。ページをめくると、今歩いている高架下の昔の姿が写っていて、ふたりで「こんな時代もあったんだね」と顔を見合わせました。

高架下商店街を抜けると、視界が開けて公園が見えてきます。東遊園地まで足を延ばすこともできますが、私たちが向かったのは、高架沿いにある小さな憩いの空間です。正式な公園というより、地域の人々が休憩できるようにと設けられたベンチとちょっとした緑地といった場所ですが、この何気なさが心地よいのです。

ベンチに腰を下ろすと、高架を走る電車の音が規則的に響いてきます。都会の雑踏とは違う、リズミカルで心地よい音です。公園の木々の間からは、神戸の街並みが見え隠れしています。「お腹空いたね」という言葉をきっかけに、私たちは再び高架下へと戻ることにしました。

戻る道すがら、先ほどは気づかなかった店が次々と目に入ります。レトロな看板を掲げる立ち飲み屋、手作りアクセサリーを並べる小さなブース、焼き鳥の香ばしい匂いを漂わせる居酒屋。高架下商店街は、同じ道でも歩く方向が変わるだけで、まったく違う表情を見せてくれるのです。

私たちが選んだのは、カウンター席だけの小さな洋食屋でした。メニューは手書きで、オムライスやハンバーグといった昔ながらの洋食が並んでいます。注文を受けた店主が、目の前の鉄板で手際よく料理を作り始めます。その様子を見ているだけで、なんだか温かい気持ちになりました。出来上がったオムライスは、ケチャップで描かれたハートマークが添えられていて、思わずふたりで笑顔になりました。

食事を終えて外に出ると、夕暮れ時が近づいていました。高架下の照明が灯り始め、昼間とはまた違った表情を見せています。オレンジ色の光に照らされた商店街は、より一層ノスタルジックな雰囲気に包まれていました。この時間帯の高架下は、昼間の活気とは違う、しっとりとした大人の空気が流れています。

神戸の元町高架下は、決して派手な観光スポットではありません。でも、だからこそ、ふたりでのんびりと過ごすには最適な場所なのです。急ぐ必要もなく、特別な目的もいらない。ただ隣を歩く人と言葉を交わしながら、この街の空気を感じる。そんな贅沢な時間が、ここにはあります。

帰り道、私たちは「また来ようね」と約束しました。次に訪れる時には、今日は入らなかった喫茶店でコーヒーを飲もうか、それとも立ち飲み屋で一杯やろうか。そんな会話をしながら駅へ向かう足取りは、来た時よりもゆっくりとしていました。神戸の元町高架下が教えてくれたのは、特別な場所へ行かなくても、大切な人とゆったり過ごす時間こそが、何よりも価値のあるものだということでした。

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