
週末の神戸、三宮駅から北へ延びる北野坂を歩き始めると、すぐに日常とは違う空気が流れ込んでくる。「ねえねえ、もうすでに雰囲気違くない?」と友人のアヤが目を輝かせながら言った。確かに、坂道の両脇には洒落たカフェやブティックが立ち並び、石畳の道が異国情緒を醸し出している。私たち5人のグループは、この日神戸の異人館巡りという観光プランを立てて集まった。普段は都会の喧騒に慣れている私たちだが、たまにはこうして歴史ある街並みをゆっくり歩くのも悪くない。
北野坂は緩やかな上り坂で、歩いているだけで自然と会話が弾む。「この坂、意外ときついね」とユウタが息を切らしながら笑う。「まだ序の口だよ、異人館エリアはもっと上にあるんだから」とリョウが地図を見ながら答える。坂の途中には、神戸らしい洋菓子店やアンティークショップが点在していて、ウィンドウショッピングをしながら進むと時間があっという間に過ぎていく。「あ、ここのケーキ屋さん有名だよね!帰りに寄ろうよ」とミカが提案し、全員が賛成する。こうした何気ない会話が、旅の楽しさを倍増させる。
坂を登りきると、目の前に広がるのは明治時代にタイムスリップしたかのような異人館街だ。「うわー、本当に洋館ばっかり!」とアヤが歓声を上げる。神戸の異人館は、明治時代に外国人居留地として発展したこの地に建てられた西洋式の邸宅群で、今でも20棟以上が保存されている。それぞれの館が独特の建築様式を持ち、当時の外国人たちの生活を垣間見ることができる貴重な観光スポットなのだ。「どこから回る?」とリョウが聞くと、「やっぱり風見鶏の館からでしょ!」とミカが即答する。
風見鶏の館は、異人館の中でも最も有名な建物の一つだ。赤レンガの外壁と尖塔に立つ風見鶏が印象的で、国の重要文化財にも指定されている。中に入ると、当時の家具や調度品がそのまま残されていて、「これ全部本物なんだよね?すごくない?」とユウタが興奮気味に言う。暖炉のある応接間、重厚な食堂、細部まで凝った装飾。一つ一つの部屋を見て回りながら、私たちは明治時代の神戸に住んでいた外国人商人の暮らしぶりに思いを馳せる。「当時はこんな異国の地で、どんな気持ちで暮らしていたんだろうね」とアヤがしみじみと呟く。
次に向かったのは萌黄の館だ。淡いグリーンの外壁が特徴的なこの洋館は、風見鶏の館の隣に位置している。「この色、本当に綺麗!インスタ映えするよね」とミカがさっそくスマートフォンを構える。私たちも次々と写真を撮り合い、ポーズを決めては笑い合う。萌黄の館の2階からは神戸の街並みと海が一望でき、「わあ、神戸ってこんなに海が近いんだ」とユウタが感動している。ベランダから見える景色は、港町神戸の魅力を存分に感じさせてくれる。
異人館巡りの面白さは、それぞれの館が全く異なる個性を持っているところだ。次に訪れたうろこの館は、外壁が天然石のスレートで覆われていて、まるで魚の鱗のように見えることからその名がついた。館内には西洋アンティークの家具や美術品が展示されていて、「これ、どれくらいの価値があるんだろう」とリョウが目を丸くする。特に印象的だったのは、イノシシの剥製だ。「なんでイノシシ?」と全員で首を傾げたが、それもまた異人館の謎めいた魅力の一部なのかもしれない。
歩き疲れた私たちは、異人館街のカフェで休憩することにした。「もう足がパンパンだよ」とユウタが椅子に座り込む。テラス席から見える神戸の街並みを眺めながら、それぞれが注文したケーキとコーヒーを楽しむ。「神戸って、本当に観光するのに良い街だよね。歴史もあるし、海も山もあるし」とアヤが言う。確かに、神戸は観光地としての魅力が凝縮された街だ。異人館のようなレトロな観光スポットもあれば、ハーバーランドのような現代的なエリアもある。そのバランスが、多くの観光客を惹きつけているのだろう。
カフェを出て、私たちはさらに奥の異人館へと足を進めた。「まだ行ってない館があるよ」とリョウが地図を指差す。山手八番館、北野外国人倶楽部、英国館など、それぞれに特色のある館が点在している。山手八番館では、サターンの椅子という不思議な椅子に座って願い事をした。「本当に叶うかな」とミカが真剣な顔で座っている姿に、みんなで笑ってしまう。こうした遊び心のある展示も、若者グループで訪れる楽しさの一つだ。
夕方近くになり、北野坂を下りながら、私たちは今日一日の思い出を振り返った。「やっぱり神戸来て良かったね」「異人館、想像以上に面白かった」「また来たいね」と口々に感想を述べ合う。北野坂の途中で、朝に目をつけていたケーキ屋さんに立ち寄り、お土産用のスイーツを買い込んだ。「これ、家族も喜ぶだろうな」とユウタが嬉しそうに袋を抱える。
神戸の異人館観光は、単なる歴史的建造物の見学ではない。友人たちとワイワイ言いながら坂道を登り、それぞれの館で驚いたり笑ったりしながら、共通の思い出を作る体験なのだ。北野坂の石畳を踏みしめながら、私たちは次の旅行先について早くも話し始めていた。でも、きっとまた神戸に戻ってくるだろう。この街には、何度訪れても新しい発見がある気がするから。


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