
初夏の日差しが心地よい週末の朝、神戸須磨水族館のエントランスには開館前から家族連れの列ができていた。父親に手を引かれた小さな男の子が「早く入ろうよ」と弾んだ声を上げ、母親に抱かれた赤ちゃんがきょろきょろと周囲を見回している。ベビーカーを押す若い夫婦、祖父母と三世代で訪れた家族、友人同士で来た子供たちのグループ。賑やかな笑い声と期待に満ちた表情が、まるで潮風のように爽やかに広がっていく。
ゲートをくぐると、子供たちの目が一気に輝き始める。薄暗い館内に足を踏み入れた瞬間、青く光る大水槽が視界に飛び込んでくる。そこには悠々と泳ぐエイの姿があり、五歳くらいの女の子が「わあ、飛行機みたい」と声を上げた。確かにエイの優雅な泳ぎは、まるで海の中を滑空しているようだ。父親がスマートフォンを構え、娘の驚いた表情と水槽を一緒にフレームに収めようとしている。その横では兄らしき少年が水槽に顔を近づけ、魚の動きを真剣な眼差しで追っている。
神戸須磨水族館の魅力は、ただ海の生き物を展示しているだけではない。ここには子供たちの好奇心を刺激する仕掛けがいたるところに散りばめられている。タッチプールのコーナーでは、恐る恐る手を伸ばす子供たちの姿がある。ヒトデのざらざらした感触に「気持ち悪い」と言いながらも、何度も触ってしまう不思議な魅力。ナマコのぷにぷにした感触に「柔らかい」と笑顔を見せる子供たち。飼育員のお姉さんが優しく生き物の説明をすると、子供たちは目を輝かせて聞き入っている。
イルカショーの時間が近づくと、家族連れは一斉にショープールへと向かう。階段状の観客席はあっという間に埋まり、最前列を確保しようと早めに来た家族は誇らしげだ。プールサイドに近い席では、ショーの水しぶきがかかるかもしれないとワクワクしている子供たちの姿がある。音楽が流れ始め、トレーナーとイルカが登場すると、会場全体が歓声に包まれる。イルカが高くジャンプするたびに「すごい」「かっこいい」という声が響き渡り、拍手の波が広がっていく。子供たちは身を乗り出し、時には立ち上がって応援する。母親が「危ないから座って」と注意しながらも、その表情は子供たちと同じように輝いている。
ペンギンコーナーでは、また違った賑やかさがある。よちよち歩くペンギンの姿に、子供たちは自分たちの姿を重ねるのだろうか。「あのペンギン、転びそう」「こっちのペンギン、お昼寝してる」と、それぞれのペンギンに注目して実況中継を始める。祖父が孫に「ペンギンは鳥なんだよ」と教えると、孫は不思議そうな顔をする。「でも飛べないじゃん」という素直な疑問に、祖母が「海の中を飛ぶように泳ぐのよ」と優しく答える。三世代が一緒に学び、驚き、笑う。そんな光景が水族館のあちこちで繰り広げられている。
クラゲの展示エリアは幻想的な空間だ。暗い部屋の中で、ライトアップされたクラゲがゆらゆらと漂っている。ここでは子供たちの声のトーンが少し落ち着く。まるで宇宙空間を漂っているような不思議な感覚に、静かな驚きを感じているようだ。「きれい」とつぶやく女の子の横顔を、母親が愛おしそうに見つめている。ベビーカーの赤ちゃんも、ゆらゆら動くクラゲに目を奪われ、じっと見入っている。
お昼時になると、館内のレストランやカフェスペースは家族連れでいっぱいになる。お弁当を持参した家族は休憩スペースでランチタイム。「イルカさんかっこよかったね」「ペンギンさん可愛かったね」と、午前中に見た生き物たちの話で盛り上がる。子供たちの興奮はまだ冷めやらず、食事の手が止まっては水族館の話を続けている。
午後になっても、神戸須磨水族館の賑わいは続く。熱帯魚の色鮮やかな姿に「お家で飼いたい」とねだる子供、深海魚の不思議な形に目を丸くする子供、サメの迫力に少し怖がりながらも見入る子供。それぞれの子供たちが、それぞれの発見と驚きを胸に、海の世界を冒険している。
帰り際、ミュージアムショップでは「これ買って」という子供たちの声が響く。イルカのぬいぐるみ、ペンギンのキーホルダー、海の生き物の図鑑。今日の思い出を形にして持ち帰りたい気持ちが溢れている。両親は財布と相談しながらも、子供たちの輝く笑顔には勝てない。
夕暮れ時、水族館を後にする家族連れの表情は、朝とは違った満足感に満ちている。疲れて眠そうな子供を抱きかかえる父親、ぬいぐるみを大事そうに抱える子供、「また来ようね」と約束する親子。神戸須磨水族館で過ごした一日は、きっと子供たちの心に特別な思い出として刻まれるだろう。海の生き物たちが教えてくれた命の不思議さ、家族と一緒に過ごした幸せな時間。それは何物にも代えがたい宝物となって、子供たちの成長を見守り続けていく。


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