春の柔らかな日差しが、元町高架下に差し込んでいた。私たち夫婦は、週末を利用して神戸の街歩きに出かけることにした。元町駅を降りて、まずは高架下商店街へと足を向ける。この場所には、いつ来ても新しい発見があり、それでいて懐かしい雰囲気が漂っている。
高架下商店街は、まるで時間が緩やかに流れているかのような独特の空間だ。頭上を電車が通過するたびに、かすかな振動と轟音が響く。でも不思議と、それすらも心地よく感じられる。商店街の両側には、古くからの老舗店舗と新しいカフェやセレクトショップが混在している。この調和が、元町の魅力の一つなのだろう。
妻と私は、まず目に飛び込んできた古書店に立ち寄った。棚には様々な年代の本が所狭しと並べられている。妻は古い料理本のページをめくりながら、「これ、おばあちゃんが持ってた本に似てる」と懐かしそうな表情を見せる。私も学生時代に読んでいた文庫本を見つけ、つい手に取ってしまう。時間を忘れて本の世界に浸っていると、お腹が空いてきたことに気づいた。
高架下には、昔ながらの中華料理店が軒を連ねている。私たちは、地元の人々で賑わう小さな店に入ることにした。カウンター席に座り、湯気の立つチャーハンと餃子を注文する。厨房からは中華鍋を振る音と共に、食欲をそそる香りが漂ってくる。ここでの食事は、いつも特別な思い出になる。
食事を終えて再び商店街を歩き始めると、レトロな雑貨店が目に入った。ガラスケースの中には、昭和時代を思わせるブリキのおもちゃやレコード、古い映画のポスターなどが飾られている。妻は、子供の頃に持っていたという柄物の手ぬぐいを見つけ、思わず笑顔になった。
高架下を抜けると、近くには東遊園地という歴史ある公園が広がっている。神戸開港の歴史を見守ってきたこの公園は、地元の人々の憩いの場所として親しまれている。ベンチに腰掛け、行き交う人々を眺めながら、先ほど買ったコーヒーを飲む。春の陽気に誘われて、子供たちが元気に遊ぶ姿も見られた。
公園での一休みの後、再び高架下に戻る。午後の陽射しが差し込む商店街は、また違った表情を見せていた。古い建物の壁に映る影が、どこか絵画のような美しさを醸し出している。雑貨店やアンティークショップを覗きながら、ゆっくりと歩を進める。
途中、若いアーティストが営むギャラリーに立ち寄った。白い壁に飾られた作品の中には、神戸の街並みを描いたものもある。高架下の風景を切り取った写真作品に、私たちは足を止めた。日常の一コマを切り取った作品に、この街の新しい魅力を感じる。
高架下には、昔ながらの靴職人の工房もある。職人さんが革を裁断する音が、静かに響いてくる。店先には、丁寧に磨き上げられた革靴が並んでいる。妻は、ディスプレイされた手作りの革小物に目を輝かせた。
夕暮れが近づき、商店街には帰宅する人々の姿が目立ち始めた。私たちも、そろそろ家路につこうと思う。最後に立ち寄ったのは、老舗の和菓子屋さん。夕食後のデザート用に、できたての大福を購入する。優しい甘さが、今日の散歩の締めくくりにぴったりだ。
元町の高架下には、時代の流れと共に変化しながらも、変わらない魅力が息づいている。古いものと新しいものが共存し、人々の暮らしに寄り添う場所。私たち夫婦にとって、この街歩きは特別な思い出となった。
電車に乗り込みながら、また来ようねと妻と約束する。窓の外には、夕暮れに染まる神戸の街並みが広がっていた。高架下で過ごした穏やかな時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれる特別な贈り物のように感じられた。
神戸の街には、まだまだ私たちの知らない魅力が隠れているに違いない。これからも二人で、この街の新しい一面を探していきたい。そんな思いを胸に、私たちは静かに家路についた。高架下での思い出は、きっといつまでも心に残り続けることだろう。
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