穏やかな春の午後、神戸港に降り立った私たちを出迎えたのは、心地よい海風でした。彼女の髪が風になびく様子を見ながら、これから始まる散歩デートに胸が高鳴ります。
メリケンパークに向かって歩き始めると、潮の香りが鼻をくすぐります。港町神戸ならではの香りに、彼女も「懐かしい匂い」と目を細めます。実は彼女、学生時代を神戸で過ごしたそうで、この場所には特別な思い入れがあるのだとか。
神戸港の象徴であるポートタワーが、春の青空に映えています。赤い鉄塔は、まるで港を見守る灯台のよう。観光客たちがスマートフォンを向ける中、私たちはベンチに腰かけ、ゆっくりとその姿を眺めることにしました。
「あのね、高校生の時によく友達とここに来てたの」
彼女が懐かしそうに話し始めます。放課後に待ち合わせをして、みんなでアイスクリームを食べながらおしゃべりした思い出。その頃はまだ、メリケンパークもこんなにお洒落な雰囲気ではなかったそうです。
時折、大きな客船が港に入ってくるのを眺めながら、私たちは歩を進めます。神戸港は日本を代表する国際貿易港。世界中から様々な船が行き交い、その様子は圧巻です。遠くには六甲山系の山々が見え、海と山の景色が織りなす神戸らしい風景が広がっています。
ハーバーランドに差し掛かると、おしゃれなカフェやショップが並び始めます。週末ということもあり、カップルや家族連れで賑わっています。モザイク前の広場では、ストリートミュージシャンが心地よい音楽を奏でていました。
「少し休憩する?」
彼女の提案で、海を眺められるカフェに入ることにしました。窓際の席から見える夕暮れの港は、オレンジ色に染まり始めています。コーヒーを飲みながら、彼女は学生時代の思い出話を続けます。初めてのアルバイト、友達との待ち合わせ、憧れの先輩との出会い。その一つ一つのエピソードに、若かりし日の彼女の姿が垣間見えるようでした。
カフェを出ると、辺りはすっかり夕暮れ。港の灯りが一つ二つと灯り始め、昼間とは違った雰囲気が漂い始めます。ライトアップされたポートタワーは、まるでジュエリーのように輝いています。
「実はね、初めて付き合った人とここでデートしたの」
突然の告白に、少し驚きました。でも、彼女の表情は晴れやかです。
「でも、今日あなたと歩いてみて、全然違う景色に見えるの。同じ場所なのに、一緒にいる人が変わると、こんなにも違って見えるんだね」
その言葉に、胸が温かくなりました。確かに、同じ景色でも見る人によって違って見えるもの。私にとっての神戸港は、彼女との思い出が詰まった特別な場所になりつつありました。
夜の帳が降りる頃、私たちはモザイクの大観覧車に乗ることにしました。ゆっくりと上昇していく観覧車からは、神戸の夜景が一望できます。港の光、街の明かり、そして山の稜線。それらが織りなす風景は、まるで宝石を散りばめたような美しさです。
「神戸って、本当に素敵な街よね」
彼女の言葉に、私もうなずきます。都会的でありながら、どこか懐かしい雰囲気を持つ神戸。海からの風が心地よく、人々の暮らしに溶け込んでいる。そんな神戸の魅力を、今日一日かけて存分に味わうことができました。
観覧車を降りると、夜の海風が二人を包みます。昼間よりも少し冷たくなった風に、彼女が私に寄り添ってきました。その仕草に、自然と腕が彼女の肩に回ります。
「また来ようね、今度は違う季節に」
彼女の提案に、心からうなずきました。きっと季節が変われば、また違った表情を見せてくれるはず。移りゆく港の風景と、深まっていく二人の関係。それを見届けるように、ポートタワーの光が私たちを見守っています。
帰りの電車に乗る前、最後にもう一度港を振り返りました。夜の闇に浮かぶ港の明かりが、まるで天の川のように美しい。今日一日の思い出が、その光の中に溶け込んでいくようでした。
神戸港での散歩デートは、私たちにとって特別な思い出となりました。海風に吹かれながら歩いた道のり、彼女の学生時代の思い出話、そして二人で見た夜景。それらすべてが、かけがえのない時間として心に刻まれています。
これからも彼女と一緒に、神戸の新しい魅力を探していきたい。そう思いながら、私たちは肩を寄せ合って駅へと向かいました。神戸の夜風が、優しく二人の背中を押してくれています。
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