
神戸港の遊歩道を歩いていたら、彼女が急に立ち止まって「あ、船」って言った。
別に珍しくもない貨物船だったんだけど、なぜかそこから二人とも無言で船を見つめる時間が始まって、気づいたら5分くらい経ってた。デートって不思議なもので、何もしてなくても時間が過ぎていくんだよね。海風が思ったより冷たくて、持ってきた上着を彼女に渡そうとしたら「いらない」って即答されたのは少し傷ついたけど。
朝10時くらいに待ち合わせして、特に目的もなく港沿いをぶらぶら歩き始めたんだけど、これが意外と悪くない。普段の休日なら家でだらだらYouTube見てるような時間帯に、潮の匂いを嗅ぎながら歩いてるっていうのが、なんというか非日常感あるというか。彼女は途中でベンチに座りたがって、私も特に反対する理由もなかったから座った。目の前には海。後ろには観覧車。ベタすぎる景色だけど、ベタって悪いことじゃないなって思った瞬間だった。
そういえば去年の夏、一人で神戸に来たことがあって。
あのときは仕事で失敗して落ち込んでて、なんとなく電車に乗ってここまで来たんだよね。一人で港見ても全然楽しくなくて、30分で帰った記憶がある。あれは何だったんだろう。今思うと、景色が変わるんじゃなくて、一緒にいる人が変わるだけでこんなに違うんだなって…まあそんな話はどうでもいいか。
彼女が「お腹空いた」って言い出したのは、歩き始めてから1時間くらい経ったころ。近くにあったカフェ——名前は「ハーバーサイドロースト」とかそんな感じの、いかにも港町っぽい店——に入ったんだけど、そこのサンドイッチが予想外に美味しくて驚いた。窓際の席で、外を歩いてるカップルとか家族連れとかを眺めながら食べるサンドイッチ。パンの焼ける匂いとコーヒーの香りが混ざって、店内はちょっと暑いくらいだったけど居心地が良かった。彼女はアイスコーヒーを頼んで、氷をカラカラ鳴らしながら飲んでた。あの音、なんか好きなんだよね。
食べ終わってからも、なぜかすぐには店を出なかった。会話が途切れても気まずくならないのって、関係性が良い証拠なのかもしれない。彼女はスマホで写真を見返してて、私は窓の外をぼーっと眺めてた。時々、観光客らしい人たちが記念撮影してるのが見えて、ああいうのも悪くないなと思ったけど、私たちは結局一枚も写真を撮らなかった。
店を出てからまた歩き始めて、今度は少し内陸の方に入ってみた。港から離れると海風が弱くなって、代わりに街の音が大きくなる。車の音、人の話し声、どこかの店から漏れてくる音楽。都会の雑音って、嫌いじゃない。彼女は途中で雑貨屋を見つけて入りたがったから付き合ったんだけど、結局何も買わずに出てきた。「見るだけで満足」って言ってたけど、じゃあなんで入ったんだろう。
午後2時を過ぎたあたりで、また港の方に戻ってきた。さっきとは違う場所だったけど、景色は似たようなもの。海、船、カモメ。でもなぜか飽きない。彼女が「疲れた?」って聞いてきたから「全然」って答えたけど、正直少し疲れてた。でも疲れたって言ったら終わっちゃう気がして。
結局、夕方近くまでうろうろして、「そろそろ帰る?」っていう話になった。特に何をしたわけでもない一日だったけど、悪くなかったと思う。電車の中で彼女は寝てしまって、私は窓の外を見てた。神戸の街が少しずつ遠ざかっていくのを眺めながら、次はいつ来ようかなとか、そんなことを考えてた。
別に結論とかないんだけど。ただ、たまにはこういう日があってもいいよね。

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