神戸・元町の高架下で見つけた、何でもない時間の価値

Uncategorized

ALT

元町の高架下って、なんであんなに落ち着くんだろう。

二人で歩くには狭すぎず広すぎず、ちょうどいい距離感がある。頭上を電車が通るたびにゴトゴトと音がして、その振動が足元から伝わってくる。初めて来た人は「うるさい」って思うかもしれないけど、私にとってはこれがBGMみたいなもので、むしろこの音がないと物足りない。高架の柱が等間隔に並んでいて、その影が地面に規則正しく落ちている。午後の光が斜めに差し込む時間帯は、特にその影が長く伸びて、なんとなく映画のワンシーンみたいな雰囲気になる。

商店街の入口あたりには古い喫茶店があって、そこのコーヒーの匂いがいつも漂ってる。「カフェ・モトマチーノ」っていう、ちょっとイタリアンぽい名前の店。実際にはただの昭和な喫茶店なんだけど。ここを通るたびに「今日は入ろうか」って言いながら、結局素通りすることの方が多い。入らないのに匂いだけ楽しんでるって、なんか申し訳ない気もするけど、まあいいか。

高架下の店って、どれも個性的すぎて面白い。靴の修理屋の隣に占い師がいて、その隣が中古レコード屋で、さらにその隣が謎の雑貨屋。何を売ってるのかよくわからない店も多いんだけど、それがいい。チェーン店じゃ絶対に出せない、あの雑多な感じ。ショーウィンドウに並んでる商品を眺めながら「これ誰が買うんだろうね」って話すのが、二人の定番の会話になってる。

去年の秋、ここで迷子になったことがある。いや、迷子って言っても高架下だから迷いようがないんだけど。トイレを探してて、商店街の奥の方までずんずん進んでいったら、気づいたら全然知らない場所に出てた。公園みたいなスペースがあって、ベンチに座ってるおじいさんたちが将棋を指してた…だけど。

公園って言っても、本当にちょっとした空き地に遊具が二つ三つあるだけの場所。でもそこには不思議と人が集まってて、犬の散歩をしてる人とか、缶コーヒー片手にぼーっとしてる人とか。高架下なのに空が見えるその場所は、なんだか秘密基地みたいで好きだった。ベンチに座って、持ってきたコンビニのおにぎりを食べた。海苔がしっとりしてて、あんまり美味しくなかったけど、その時の味は妙に覚えてる。

二人で歩くペースって、一人の時とは全然違う。私は結構せっかちで、普段は早歩きなんだけど、一緒にいるとなぜかゆっくりになる。別に相手に合わせてるわけじゃなくて、自然とそうなる。一つの店の前で立ち止まって、無言で商品を眺めて、また歩き出して。そういうリズムが心地いい。

高架下の照明って独特で、オレンジっぽい光が薄暗い空間を照らしてる。夕方になると、その光と外の自然光が混ざって、なんとも言えない色になる。写真を撮ろうとしたことがあるんだけど、あの雰囲気は全然写らなかった。カメラって、空気感までは記録できないんだよね。

途中で見つけた古本屋に入った時のこと。店主らしきおじさんが奥で新聞を読んでて、私たちが入っても顔も上げない。「いらっしゃいませ」も何もない。最初は感じ悪いなって思ったけど、よく考えたらこれって最高に自由じゃないか。誰にも邪魔されず、プレッシャーも感じず、ただ本を見ていられる。結局何も買わずに出たけど、おじさんは最後まで新聞読んでた。

元町の高架下を歩いてると、時間の流れが違う気がする。スマホを見る回数も減るし、次の予定のことも忘れる。ただそこにいて、歩いて、たまに立ち止まって。それだけ。

特別なことは何もない。観光名所でもないし、インスタ映えするわけでもない。でも、こういう場所の方が記憶に残るんだよな。派手じゃないから、逆に。

次いつ来れるかわからないけど、また来たいとも思わない。来たい時に来ればいいし、来なくてもいい。そんな感じ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました