神戸・元町の高架下で見つけた、ちょっといい午後

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元町の高架下って、なんであんなに時間がゆっくり流れてるんだろう。

二人で歩いてたのは確か三月の終わり頃で、まだ少し肌寒い風が吹いてた。JRの線路の真下に続く商店街は、天井が低くて薄暗くて、でもそれがなんだか落ち着く。頭上を電車が通るたびにゴトゴトって音が響いて、古い看板が揺れる。あの独特の湿った空気の匂いと、どこかから漂ってくるコーヒーの香りが混ざって、「ああ、神戸だな」って思う瞬間。

高架下の店って、どこも個性的すぎて目移りする。古着屋、雑貨屋、謎の骨董品店、怪しげな占いの看板…一軒一軒が勝手に好きなことやってる感じがいい。観光地みたいに整理されてないから、地元の人と観光客が自然に混ざってる。私たちも特に目的があったわけじゃなくて、ただ「散歩しようか」ってなって来ただけ。

そういえば去年の夏、一人でここに来たとき道に迷ったんだよね。高架下って似たような景色が続くから、気づいたら同じ場所をぐるぐる回ってて。スマホの地図アプリも建物の下だと微妙に狂うし。結局、小さなパン屋のおばちゃんに道を聞いて、ついでにメロンパン買って帰った。あのパン屋、今日も営業してたな。

「あの店、入ってみる?」って相手が指差したのは、ガラス戸に手書きのメニューが貼ってある小さな喫茶店。店名は「カフェ・トロワ」。フランス語っぽいけど、看板のフォントは完全に昭和。中を覗くと、カウンターに常連らしきおじさんが二人、新聞読みながらコーヒー飲んでた。

入るかどうか迷ってるうちに、なんとなく通り過ぎちゃって。こういうのよくある。

高架下を抜けると、ふいに視界が開けて小さな公園に出た。名前も知らない、地図にも載ってないような場所。遊具はブランコと滑り台だけ。ベンチに座ると、さっきまでの薄暗さが嘘みたいに日差しが暖かい。ここで初めて、ちゃんと相手の顔を見た気がする。高架下ってずっと横並びで歩くから、なんとなく会話してても、目を合わせる機会が少ないんだよね。

公園の隅に自販機があって、私はホットのミルクティー、相手はコーラを買った。「こんな寒いのにコーラ?」って聞いたら、「炭酸飲みたい気分だった」って。そういう理由のない選択、嫌いじゃない。缶を持つ手が冷たくて、でも中身は冷たくて、その矛盾がなんか面白かった。

ベンチに座ってぼんやりしてたら、近くの保育園から子どもたちの声が聞こえてきた。お散歩の時間らしい。先生が「並んで〜!」って言ってるのに、全然並ばない子どもたち。あの自由さ、ちょっと羨ましい。

「次はどこ行く?」って聞かれたけど、正直どこでもよかった。元町の高架下って、目的地じゃなくて通過点みたいな場所だから。でもだからこそ、こうやってただ歩くのがちょうどいい。観光名所を巡るわけでもなく、買い物するわけでもなく、ただ時間を共有してる感じ。

帰り道、また同じ高架下を通った。さっきと同じ景色のはずなのに、なんとなく違って見える。光の角度が変わったのか、それとも私たちの気分が変わったのか。カフェ・トロワの前を通ったとき、「今度来たら入ろうか」って言ったら、相手は「うん」って笑った。

結局、その「今度」がいつになるかは分からないけど。

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