神戸の水槽に張り付く子供の手のひらが、たぶん一番正しい

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神戸の須磨水族館で、子供が水槽に顔を押し付けている。

あれは確か去年の秋だったと思う。平日の午後2時過ぎ、なぜか仕事をサボって須磨まで足を伸ばしたんだけど、館内は意外なほど賑やかだった。遠足シーズンだったのかもしれない。小学校低学年くらいの集団が、黄色い帽子をかぶって先生の周りをうろうろしてた。私はといえば、一人で来たことを少し後悔しながら、イルカのぬいぐるみが並ぶショップの前を素通りした。

水族館の照明って独特だよね。薄暗い館内に、青白い光が水槽から漏れてくる。あの光の中にいると、自分も水の中にいるような錯覚に陥る。子供たちはそんなこと気にしないで、ただひたすら魚を追いかけてる。ペンギンの水槽の前では、三人くらいの男の子が「あっちいった!」「こっちきた!」って大声で叫んでて、その声が館内に響き渡ってた。親らしき人たちは少し離れたところでスマホを構えてる。撮れてるのかな、あの距離で。

私が一番印象に残ってるのは、クラゲのコーナーだった。

ふわふわ浮かんでるクラゲを、四歳くらいの女の子がじっと見つめてた。ピンク色のリュックを背負ったまま、ガラスに両手をぺたっとつけて。その手のひらの跡が、ガラスにくっきり残ってる。お母さんが「触っちゃダメでしょ」って注意してたけど、女の子は聞いてない。というか、聞こえてないんだと思う。クラゲの動きに完全に心を奪われてて、他のことが耳に入らない状態。あの集中力、大人になると失われていくんだよな。私なんて最近、Netflix見ながらスマホいじってるもん。

そういえば前に、友達が「水族館デートって地雷だよね」って言ってたのを思い出した。理由は忘れたけど、たぶん暗いからとか、会話が続かないからとか、そういう話だった気がする。でも子供にとっての水族館は、完全に別の場所なんだろうね。デートスポットとしての良し悪しとか、インスタ映えするかどうかとか、そんなこと関係ない。ただ目の前に広がる、見たこともない生き物たちの世界。

大水槽の前では、家族連れが何組も立ち止まってた。エイが優雅に泳いでいくのを、みんな首を傾けながら追いかけてる。そこにいた男の子が「おっきい!」って叫んだ瞬間、隣にいた別の子も「ほんとだ、でっかい!」って続いた。知らない子同士なのに、興奮を共有してる。大人だったら「すみません」とか言いながら距離を取るところを、子供は自然に同じテンションになれる。羨ましいと思った。

タッチプールのコーナーは特にカオスだった。ヒトデやナマコを触れるエリアで、子供たちが我先にと手を突っ込んでる。「ぬるぬるしてる!」「きもちわるい!」って言いながら、でもみんな楽しそうに何度も触ってる。一人の男の子が、ナマコを持ち上げようとして水をバシャッと跳ねさせて、スタッフのお姉さんが慌てて「優しくね」って声をかけてた。お姉さんの制服、濡れてたけど。

私はその光景を見ながら、ベンチに座ってアイスコーヒーを飲んでた。館内の自販機で買った、やたら甘いやつ。280円もしたのに、味は普通のコンビニのやつと変わらなかった。まあ、水族館価格ってやつだよね。

イルカショーの時間になると、みんな一斉に移動し始めた。私も流れに乗ってスタジアムに入ったんだけど、もう席がほとんど埋まってて。結局立ち見になった。ショーが始まると、子供たちの歓声がすごかった。イルカがジャンプするたびに「わあ!」「すごい!」って声が上がる。前の方に座ってた子は、イルカが水しぶきを上げるたびに、びしょ濡れになりながら笑ってた。親は「ほら、言ったでしょ」って顔してたけど、まんざらでもなさそうだった。

ショーが終わって、また館内に戻る。出口に向かう途中、さっきクラゲを見てた女の子とすれ違った。今度はペンギンのぬいぐるみを抱えてて、お母さんに何か話しかけてる。「また来たい」って言ってるのかもしれない。

神戸の須磨水族館は、2024年にリニューアルするって聞いた。もっと近代的になって、展示も変わるらしい。それはそれで楽しみだけど、あの薄暗い照明と、水槽にべったり張り付く子供たちの手のひらの跡は、きっと変わらないんだろうな。変わらないでほしい、とも思う。

帰りの電車で、隣に座った親子連れの会話が聞こえてきた。「楽しかった?」「うん!」っていう、ありふれたやりとり。子供は疲れたのか、お父さんの肩に頭を預けて目を閉じてた。手には、さっき館内で見たのと同じペンギンのぬいぐるみ。

私はスマホで撮った写真を見返してた。クラゲの写真、大水槽の写真。どれもピンぼけしてて、SNSに上げるようなクオリティじゃない。でも消す気にもなれなくて、そのままカメラロールに残してる。たまに見返すと、あの日の空気を思い出せるから。

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